ISSからの電波をキャッチせよ!ARISSスクールコンタクトの仕組みと日本の交信事例
夜空を見上げ、光の点となって上空を駆け抜けていく国際宇宙ステーション(ISS)。あの中にいる宇宙飛行士と、地上にいる子供たちが「自分たちの声」で直接会話をしている姿を想像してみてください。
それを実現しているのが、「ARISSスクールコンタクト」です。インターネットや衛星電話を介さず、純粋に「アマチュア無線」の電波だけで宇宙と地球をダイレクトに結ぶこのプロジェクトは、無線家たちにとって究極のロマンであり、技術の結晶でもあります。
この記事を読めば、あなたもISSからの電波を自分の無線機でキャッチしたくなるはずです。
ARISSスクールコンタクトとは? その歴史と目的
ARISS(Amateur Radio on the International Space Station)は、NASAの教育プログラムです。時速およそ2万7000km/hのスピードで地球の周りを待っているISSが、自分たちの住むエリアの上空を通過する際に、アマチュア無線を利用して直接宇宙に向けて電波を発射し、今まさに400km上空の宇宙にいるNASAの宇宙飛行士と交信を行うというイベントです。最大の目的は、青少年に宇宙や科学技術への興味を持ってもらうこと(STEM教育)にあります。
スペースシャトル時代(SAREX)からISSへ
宇宙からのアマチュア無線運用の歴史は、ISSよりも前に遡ります。1983年、スペースシャトル・コロンビア号に搭乗したオーウェン・ギャリオット飛行士(W5LFL)が、宇宙から初めてアマチュア無線で交信を行いました(SAREX計画)。この成功が現在のARISSへと引き継がれ、2000年11月にISSの第1次長期滞在クルーが到着して以来、ISSにはアマチュア無線機が常設されています。
日本における歴史と第一号の事例
日本で初めてのARISSスクールコンタクトが成功したのは、2001年11月のことです。埼玉県入間市の児童センターアマチュア無線クラブメンバーの小学生からたちが、ISSに滞在中のフランク・カルバートソン宇宙飛行士(KD5OPQ)との交信を見事成功させました。それ以来、日本全国の小学校から高校まで、数多くの学校がこの夢のプロジェクトに参加しています。
ISSと交信するための技術的ハードル(アマチュア無線の神髄)
「宇宙ステーションと無線で話す」と聞くと魔法のように聞こえますが、実際には物理法則とアマチュア無線技術のシビアな闘いがあります。
使用される周波数と通信モード
ISSからのダウンリンク(ISSから地上への送信)には、主にVHF帯の145.800MHz(FMモード)が使用されます。出力は数十ワット程度ですが、宇宙空間と地上の間には遮るものがないため、市販のハンディ機でも宇宙飛行士の声を簡単に受信することが可能です。
| 項目 | ARISS スクールコンタクトの主な仕様 |
| ダウンリンク(ISS→地上) | 145.800 MHz (FM) |
| アップリンク(地上→ISS) | ※非公開 |
| 交信可能時間(1パス) | 約10分間 |
| ISSの高度 / 速度 | 約400km / 秒速約7.7km |
猛スピードで移動するISS! ドップラーシフトとの戦い
ISSは秒速約7.7kmという猛スピードで地球を周回しています。そのため、救急車のサイレンの音程が変わるのと同じ「ドップラー効果(ドップラーシフト)」が電波にも発生します。
ISSが近づいてくる時は周波数が見かけ上高くなり、遠ざかる時は低くなります。145MHz帯の場合、最大で約±3kHzほどのズレが生じるため、地上の無線局は、ISSの軌道計算ソフトウェア(SatPC32など)と無線機をPCで連動させ、リアルタイムで周波数を微調整(VFO制御)し続けなければ、クリアな音声は保てません。

方位角と仰角の壁。アンテナ自動追尾システムの制御
約10分間という短い交信可能時間(AOSからLOSまで)の中で、ISSは地平線から現れ、頭上を通過し、反対の地平線へ沈んでいきます。
確実な交信を行うためには、高利得のクロス八木アンテナを使用します。しかし、指向性が鋭いアンテナを、移動するISSに常に向け続ける必要があります。これを実現するため、方位角(アジマス)と仰角(エレベーション)をPC制御で自動的に動かす「ローテーターシステム」が不可欠です。ARISSをサポートするメンバーは、このアンテナシステムの構築とリハーサルをしっかり行ってARISSに挑戦しています。
ISSの軌道などは、事前に以下のサイトなどで調査しておきます。
【独自体験記】10分間のパスに賭ける! ARISSオペレーターの記憶
私は過去に、日本で行われたスクールコンタクトの際、ARISSのオペレーターを経験したことがあります。
メインオペレーターの仕事は、地平線から上がってくるISSが地平線に消えていく僅か10分間の間に、NASAの宇宙飛行士との接続を行い、子どもたちにバトンタッチを行った後に、次々質問を行っていく子どもたちをスムーズに移動させていくという重要なものになっています。
あくまで子供が主役のイベントですから、最初の接続はなるべく簡単にすませ、子どもたちの時間を十分に取ってあげる必要があります。中には緊張して言葉が出なくなってしまう子どももいるので、子どもたちが予定している宇宙飛行士への質問内容も把握して、横でサポートする必要もあります。
また、接続の際には、軌道計算ソフトのカウントダウンがゼロ(AOS)になり、こちらからISSのコールサインを呼んでもなかなか応答しない場合があります。しかし何度も呼んでいると、ノイズだった145.800MHzの周波数から、突如としてノイズを切り裂くように「This is NA1SS 」という英語のコールサインが飛び込んできました。Sメーター(信号強度)はみるみるうちに振り切れ、頭上約400kmの宇宙空間からダイレクトに届く電波の力強さに鳥肌が立ちました。
接続された瞬間は会場が歓声につつまれます。子どもたちも緊張の顔から笑顔に切り替わります。
子供たちの緊張しながらも元気な質問と、それに優しく答える宇宙飛行士のやり取り。ドップラーシフトに合わせてPCが無線機のダイヤルをカタカタと自動制御する音。あの10分間の感動は、チャレンジしたものにしか味わえない宇宙とのかかわりをもつ貴重な体験となりました。
最近の日本の事例と、運用を支える地元の無線家たち
近年でも、日本各地でスクールコンタクトは盛んに行われています。2024年〜2025年にかけても、京都の下鴨中学校 や兵庫県多可町の事例 など、多くの子供たちが宇宙飛行士との交信を果たしています(※スケジュールはARISSの公式サイト等で随時更新されています)。
これらの成功の裏には、必ず「地元のボランティア・アマチュア無線家たち」の存在があります。彼らは半年以上前から学校側と綿密なミーティングを重ね、機材の搬入、アンテナの仮設、総務省への特別な免許申請のサポート(社団局の開設など)、そして交信の訓練までを無償で支援しています。ARISSスクールコンタクトは、まさに地域のアマチュア無線コミュニティが子供たちへ贈る、最高のバトンタッチなのです。
これで終わらせてほしくないARISSの体験
さて、ここでARISSイベントに何度も参加している筆者として思うのが、せっかくのARISSスクールコンタクトを行うのであれば、その前後の教育カリキュラムはしっかり組み上げて子どもたちの体験を「感動した」だけで終わらせてほしくないという事です。アマチュア無線は国家資格ですから、参加する子どもたちにアマチュア無線の免許を取得させたり、日本人宇宙飛行士がISSにいない時には英語で話さないといけませんので、コミュニケーションツールとしての英語の大切さを教育したり、ARISSが終った後にも、海外のアマチュア無線家との通信を行って、ARISSの感動を伝えたりと、ARISSをきっかけに子どもたちにできることが増えたと実感できるものになってほしいと願います。
このイベントはサポートする大人たちにとっても貴重な体験となるため、意外とARISSでの交信を行っただけで大人たちは満足しがちです。そこには主人公である子どもたちが居て、その子たちの体験を放置せず、きっかけからのスタートをサポートする事がこのイベントの最も重要な部分と言えます。
ARISSスクールコンタクトは夢あるチャレンジ!
いかがでしたでしょうか。今回はアマチュア無線の視点から、ARISSスクールコンタクトの魅力と技術的背景に迫りました。
- ARISSスクールコンタクトは、子供たちとISSをアマチュア無線で繋ぐ夢のプロジェクト。
- 交信には145.800MHz(ダウンリンク)が使われ、受信だけであれば市販の無線機でも可能。
- 送信を含めた完璧な交信には、ドップラーシフト補正やアンテナ自動追尾システムといった高度な無線技術が必要。
- 成功の裏には、サポートに徹する地元アマチュア無線家たちの熱い思いと技術力がある。
- 子どもたちはARISSの体験だけでは行動に移せず、そこからのサポートが最も重要。
オンエアーズでは、無料で登録できる様々なコミュニティがあります。アマチュア無線をスタートした人が初歩的過ぎて聞きずらい事などを聞けるコミュニティなどもありますので、是非参加してください。