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7月29日は「アマチュア無線の日」!歴史からイベント、始め方まで徹底解説

初めての交信 オンエアーズ onAirs.net

スマホでは味わえない「つながる」感動、アマチュア無線の世界へようこそ

スマートフォンやSNSによって、私たちは常に誰かと「つながって」います。しかし、そのつながりは本当に「コミュニケーション」と呼べるでしょうか。アルゴリズムによって最適化され、予測可能なやり取りが溢れる現代において、偶然の出会いや予期せぬ発見に満ちた、まったく異なる「つながり」の世界が存在します。それは、光ファイバーではなく、目に見えない電波に乗って空を旅するコミュニケーション、アマチュア無線の世界です 。

毎年7月29日は、この奥深い世界への扉が開かれる特別な日、「アマチュア無線の日」です。この記念日はなぜ制定されたのでしょうか。そして、「趣味の王様」とも呼ばれるこのホビーは、21世紀の今、なぜなおも人々を魅了し続けるのでしょうか 。

この記事では、「アマチュア無線の日」のドラマチックな歴史的背景から、この日を彩るエキサイティングなイベント、そして現代におけるアマチュア無線の色褪せない魅力、さらには誰でもこのグローバルなコミュニティに参加できる具体的な方法まで、初心者の方にも分かりやすく徹底的に解説します。

7月29日「アマチュア無線の日」とは?—復活の狼煙が上がった日—

記念すべき「再開」の日

毎年7月29日の「アマチュア無線の日」は、1973年(昭和48年)に一般社団法人日本アマチュア無線連盟(JARL)によって制定された記念日です 。

この日付が選ばれたのは、日本の歴史における重要な瞬間を記念するためです。1952年(昭和27年)の7月29日、太平洋戦争中に禁止されていたアマチュア無線が、1950年(昭和25年)に施行された新しい電波法に基づき、正式に再開されました。この日、全国の30人に対して戦後初のアマチュア無線局予備免許が交付され、日本の無線コミュニティにとって歴史的な復活の日となったのです 。

戦争による沈黙と、復活への熱意

この「再開」という言葉の裏には、情熱と苦難の物語が隠されています。日本のアマチュア無線は、1922年(大正11年)に初の個人実験局が免許され、1926年(大正15年)にはJARLが37名の盟員によって設立されるなど、戦前から活発な歴史を刻んでいました 。1941年(昭和16年)には、個人の私設無線局は300局以上にまで増加していました 。

しかし、1941年12月8日の太平洋戦争勃発と同時に、すべての私設無線局の電波発射は禁止され、アマチュア無線家たちは長い沈黙の時代を強いられることになります 。

戦後、アマチュア無線家たちの復活への熱意は消えることなく、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)や日本政府への粘り強い働きかけが続けられました。その情熱が実を結び、1951年(昭和26年)に戦後初の国家試験が実施され、翌1952年7月29日の歴史的な再開へとつながったのです 。

アマチュア無線の復活 onAIrs.net オンエアーズ

興味深いのは、再開から21年後の1973年になって記念日が制定された点です。この背景には、1960年代から70年代にかけての日本の高度経済成長と歩調を合わせるように、アマチュア無線が「趣味の王様」として爆発的なブームを迎えたことがあります 。1975年には、日本のアマチュア無線局数はアメリカを抜き、世界一となりました 。JARLが地方本部や支部制度を整備し組織を固めていたこの時期に 、記念日を制定することは、急増する新しい仲間たちに共通のアイデンティティと「戦争による禁止を乗り越えた」という誇り高い歴史を共有する、極めて戦略的なコミュニティ形成の一環であったと考えられます。単なる過去の記念ではなく、未来へ向けた結束を促すための布石だったのです。

「世界アマチュア無線の日」との違い

日本の「アマチュア無線の日」とは別に、国際的な記念日も存在します。毎年4月18日は「世界アマチュア無線の日(World Amateur Radio Day)」です 。これは、1925年の同日に、フランスのパリで国際アマチュア無線連合(IARU)が設立されたことを記念する日で、世界中のアマチュア無線家がその社会的貢献を祝い、活動をアピールする日となっています 。7月29日が日本の「復活」を祝う日であるのに対し、4月18日は世界の「誕生」を祝う日と覚えておくと良いでしょう。

電波の祭典:アマチュア無線の日を彩るイベントの数々

7月29日とその前後は、アマチュア無線の魅力を体験できる様々なイベントで盛り上がります。

空に響く祝福の声:特別記念局「8J」「8N」を聴いてみよう

アマチュア無線の世界では、国民的な行事や地域の記念イベントなどを祝うために、期間限定で「特別記念局」が開設されます 。これらの無線局は、JARLや地方公共団体、博覧会協会などが主催し、アマチュア無線のPRとイベントの盛り上げに貢献します

特別記念局の最大の特徴は、そのコールサイン(呼出符号)です。通常、日本のコールサインは「JA」や「7K」などで始まりますが、特別記念局には「8J」または「8N」で始まる特別なコールサインが割り当てられます。このコールサインが聞こえたら、何か特別なイベントが行われている証拠です。

過去には、G7伊勢志摩サミット(8J2IseShima)や市町村合併記念(8J5MC)、そして2025年の大阪・関西万博では「8K3EXPO」という極めて珍しいコールサインの記念局が運用される予定です

また、「アマチュア無線の日」当日には、JARLの中央局である「JA1RL」が記念運用を行い、全国の無線家との交信を通じて記念日をPRすることが恒例となっています 。ただし、2021年のように東京オリンピック記念局「JA1TOKYO」の運用が優先されるなど、その時々の大きなイベントに応じて柔軟に運用形態が変わるのも特徴です

腕試しのチャンス:全国で開催されるコンテスト

アマチュア無線には、決められた時間内にどれだけ多くの無線局と交信できるかを競う「コンテスト」というスポーツの側面もあります 。7月から8月にかけては、まさにコンテストシーズンです。

「アマチュア無線の日」に特化したコンテストはありませんが、この時期には四国地方の「オールJA5コンテスト」や各地域支部が主催するローカルコンテストが数多く開催されます 。また、7月には「全国高等学校アマチュア無線コンテスト」が 、8月の第一週末には野外での運用を奨励する大規模な「フィールドデーコンテスト」が行われ、多くの無線家が腕を競い合います

仲間と集う:ハムフェアと地域のイベント

電波の上だけでなく、実際に顔を合わせるイベントもアマチュア無線の大きな楽しみです。その最大のものが、毎年8月下旬に東京ビッグサイトで開催される「アマチュア無線フェスティバル(ハムフェア)」です 。会場には無線機メーカーや販売店、クラブなどがブースを連ね、最新機器の展示やジャンク市、セミナーなどが催され、全国から数万人のファンが集結する一大イベントです。

ハムフェアの様子 オンエアーズ onAirs.net

その他にも、7月には「関西アマチュア無線フェスティバル(KANHAM)」、春には「西日本ハムフェア」など、全国各地で大規模なイベントが開催されており、初心者からベテランまでが交流を深める絶好の機会となっています

なぜ今、アマチュア無線?—「趣味の王様」が持つ色褪せない魅力—

携帯電話やインターネットが普及した今、なぜアマチュア無線なのでしょうか。その魅力は、現代社会が失いつつある「体験」の中にこそ存在します。

未知との遭遇:世界中の誰かとつながるドキドキ感

アマチュア無線の最大の魅力は、その「偶然性」にあります。自分でつながる相手を選ぶSNSとは対極的に、アマチュア無線では「CQ、CQ(どなたか応答願います)」と呼びかけるまで、誰が応答してくれるか分かりません 。それは近所の同好の士かもしれませんし、電波のコンディションが良ければ、地球の裏側の見知らぬ国の誰かかもしれません

自分の声が電波となって空を飛び、遠くの誰かに届く不思議さ。思いがけない遠距離通信(DX)が成功した時の喜び 。そして、年齢や職業、国籍を超えて、偶然の出会いから生まれる友情。これらは、アルゴリズムに支配された世界では決して味わえない、生身の感動です。

モノづくりのロマン:自分だけの無線機やアンテナを作る

アマチュア無線は、単なる通信手段ではありません。技術的な探求心を刺激する、奥深い「モノづくり」の趣味でもあります 。市販の高性能な無線機を使うのも一つの楽しみですが、自分で無線機やアンテナを自作したり、改造したりして性能を追求するのも、この趣味の醍醐味です。

簡単なアンテナを自作するだけでも、電波の飛び方が劇的に変わることがあります。試行錯誤の末に、自分の手で作った設備で遠くの誰かと交信できた時の達成感は、何物にも代えがたいものです。

現代社会の利便性が高まるほど、人は趣味の世界に「あえて不自由さ」を求める傾向があるのかもしれません。キャンプやサイクリングのように、手間や困難を乗り越えるプロセスそのものを楽しむ 。この「不便益」こそが、アマチュア無線の核心的な魅力の一つと言えるでしょう。予測不能な電波の振る舞いに一喜一憂し、工夫を凝らして困難な交信を成功させる。その過程で得られる達成感は、便利さの中で忘れがちな人間らしい喜びを再発見させてくれます。

社会貢献という誇り:災害時に命をつなぐライフライン

アマチュア無線は、現代社会において極めて重要な役割を担っています。それは、災害時における「最後のライフライン」としての機能です。

大規模な地震や台風が発生すると、携帯電話の基地局は停電やアクセス集中で機能不全に陥りがちです 4。しかし、アマチュア無線は基地局を介さず、無線機同士で直接通信できるため、こうした状況下でも情報伝達手段として機能します。

災害時の活用 オンエアーズ onAirs.net

実際に、阪神・淡路大震災や東日本大震災では、多くのアマチュア無線家が被災地に入り、安否確認や救援物資の要請、孤立集落からのSOS信号の受信など、人命救助に直結する重要な通信を担い、多大な貢献を果たしました

さらに、2021年には総務省による法解釈の明確化により、アマチュア無線を災害ボランティア活動や地域の防災訓練、マラソン大会や祭りといった社会貢献活動に広く活用できることが公式に認められました 。これにより、アマチュア無線は趣味の枠を超え、地域社会に貢献できる誇り高い活動としての側面を一層強めています。

あなたも今日から「局長」に!アマチュア無線家への第一歩

「面白そうだけど、何だか難しそう…」と感じるかもしれませんが、アマチュア無線家(ハム)になるための道筋は、驚くほど明確で開かれています。

Step 1: 国家資格を取得する(講習会か、独学か?)

アマチュア無線を行うには、まず「無線従事者免許」という国家資格が必要です。初心者の方は、まず「第四級アマチュア無線技士(4アマ)」の取得を目指しましょう。取得方法は主に二つあります。

  1. 養成課程講習会: 初心者に最も推奨される方法です。日本アマチュア無線振興協会などが開催している講習会で、通常、土日の2日間(合計10時間)の講習を受け、最終日の修了試験に合格すれば資格が取得できます。合格率は95%以上と非常に高く、安心して挑戦できます。費用は、18歳以下は割引があり、大人は26,000円前後です
  2. 国家試験: 独学で挑戦する方法です。費用は試験手数料の5,100円程度と安価ですが、自分で勉強する意欲が必要です。現在はパソコンで受験するCBT方式が主流で、市販の過去問題集を繰り返し解くことで十分に合格が狙えます

 

将来的には、モールス信号での交信が可能になる第三級や、より強力な電波が出せる第二級、第一級へとステップアップする道も開かれています

Step 2: 無線機(リグ)とアンテナを選ぶ

資格が取れたら、次は相棒となる無線機(リグ)とアンテナを選びます。信頼できる国内メーカーとして、アイコム(Icom)、八重洲無線(Yaesu)、ケンウッド(Kenwood)、アルインコ(Alinco)などがあります

  • 無線機の種類:
  • ハンディ機: 片手で持てるポータブルタイプ。価格も手頃で、初心者の最初の1台として最もおすすめです
  • モービル機: 車に搭載するタイプ。ハンディ機より強力な電波が出せます
  • 固定機: 自宅に据え置くタイプ。最も高機能でパワフルな運用が楽しめます
  • 周波数帯: 最初は、ハンディ機で手軽に楽しめる430MHz帯や、日本国内の遠距離交信で人気の7MHz帯などがおすすめです

Step 3: 自分だけのコールサインを手に入れる(開局申請)

無線従事者免許は「人」に与えられる資格ですが、実際に電波を出すためには、無線機を登録して「無線局」としての免許を受ける必要があります。この「開局申請」が受理されると、あなただけの世界で一つしかないコールサイン(例:JA1RL)が与えられます

申請は、管轄の総合通信局へ書面または電子申請で行います。電子申請の方が手数料は安いですが、初めての方には少し複雑かもしれません。申請から数週間で免許状が届き、晴れて「局長」として電波を出すことができます。

Step 4: 交信してみよう!

いよいよ、初めての交信(QSO)です。最初は緊張するかもしれませんが、決まった作法があります。まずは他の人の交信をよく聞いて(ワッチして)流れを掴みましょう

  • CQを出す: 不特定の相手に呼びかける場合は「CQ、CQ、こちらは…」と始めます
  • フォネティックコード: コールサインを正確に伝えるため、「A(アルファ)、B(ブラボー)、C(チャーリー)」といった欧文通話表(フォネティックコード)を使うのが必須のマナーです
  • QSLカード: 交信した証として、お互いに「QSLカード」という交信証明書を交換する美しい文化があります。デザインを工夫して、自分だけのカードを作るのも楽しみの一つです

7月29日、あなたも電波の海へ漕ぎ出そう

「アマチュア無線の日」は、戦争による断絶を乗り越えた先人たちの情熱を記念する、復活と希望の象徴です。そして現代のアマチュア無線は、技術的な挑戦、偶然の出会いがもたらす人とのつながり、そして社会に貢献する喜びという、多岐にわたる魅力に満ち溢れています。

コミュニティは常に新しい仲間を歓迎しており、無線家になるための道はかつてなく開かれています

いきなり免許を取るのはハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、電波を聞くだけなら免許は不要です。この7月29日、まずはインターネット上で世界中の無線を聞ける「WebSDR」などのサイトにアクセスしてみてください。そこでは、今この瞬間も、世界中の誰かが物語を紡いでいます。

空に満ちる無数の声に、そっと耳を澄ませてみませんか。次にその物語を紡ぐのは、あなたかもしれません。

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